とにかく手帖にメモる癖。

どこかの片隅にて、事実8割、妄想2割。

ゼルビア手帖 Vol.11『“理想”と“現実”』

CONTENTS

1.あいさつ

2.【コラム】“理想”と“現実”

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1.あいさつ

 どうも。町田は京都戦から続いて3連敗を喫しました。いくら強豪相手が続いたからと言って、さすがにこの連敗は厳しいものですね。次節・栃木SC戦はホームなので「勝ち点3」を是が非でも手中に収めたいところです。

 さて、先日4月9日(月)に小平グラウンドでFC東京対栃木SCのトレーニングマッチが行なわれたので、取材して来ました。その際に、栃木の松田浩監督に話を伺う機会があり、30分弱もお話しいただきました。その話と以前アルディレス監督にインタビューした際の話で、両者のサッカー観が面白かったので、今回はそのことをコラムにして、プレビューのようにお届けしたいと思います。

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2.【コラム】“理想”と“現実”

 サッカーにおいて、指揮官が己のチームを築く時、指針とするもの――“哲学”。FC町田ゼルビアの現監督であり、清水エスパルス東京ヴェルディ、横浜Fマリノスでタイトルを勝ち取ってきたオズワルド・アルディレスは、町田の就任記者会見でこう語った。「私は勝利よりも美しいフットボールを目指す」。その言葉に偽りはなく、チームには連動した動きと、芝の上を気持ちよくボールを転がし、観ているものを虜にするパスサッカーを求めている。それは町田の哲学とも共通する部分がある。

 哲学を貫くことは、チームを築く上でなによりも大切にするべきものであり、ある種“理想”を追い求めるということだ。しかし、その一方でプロの世界では時に“現実”という壁にぶつかる。理想を求めながらも、現実では勝利という結果を出さなければならないのがプロというもの。理想を追うばかりに、現実という高い壁の前で崩れさる姿は、サッカーの一つの風景である。そして、コインを裏返したように理想をかなぐり捨て、現実を愚直に追い求める姿もまたサッカーだ。

 “理想”と“現実”。

 この2つの狭間で世界中の指揮官が、日々葛藤を繰り返し、両立することは困難を極める。だが、それを可能にしているチームが存在する。“FCバルセロナ”だ。そのサッカーに、哲学に、多くのサッカーファンは共鳴し、魅了される。ホームスタジアムであるカンプノウは、まさに一つの理想郷なのだ。

 今週末に対戦するFC町田ゼルビアと栃木SCの指揮官も、そのサッカーに心奪われ、FCバルセロナという理想を夢見る人間だ。アルディレスが現在のFCバルセロナを「今日(こんにち)のみならず、フットボールの歴史上で最も優れたチーム」と語れば、強固な守備とカウンターを得意とする松田浩も「理想はバルサのようにボゼッションをしたい」と本音を漏らす。そしてそのあとに2人は全く同じ言葉を続けた。「世界のあらゆる人間がバルサのサッカーをしようとするが、誰も成し得ていないではないか。バルサの真似をすることはできない」と。 

 “唯一無二”。

 FCバルセロナをそう表現する2人だが、現在その2人が進む道は真逆と言えるほど異なるものだ。アルディレスは前からの素早いプレスと、細かくテンポのいいパス回しをトレーニングで繰り返す。ある選手は「本当はもう少し蹴ることがあっても良いのかもしれないが、それでも監督はパスを繋ぐことを求める」と、哲学へのこだわりが揺らぐことは決してない。町田の戦力と自身の“理想”を少しずつ摺り合わせ、攻撃的で観客を魅了するサッカーを追い求めている。

 一方、松田は「できないことをやらせて毎回失点していた。それではゲームプランにならないから神戸の時にも蹴らせていた」と、ポゼッションサッカーを求めてはいない。中心選手の移籍や怪我人が出ていることもあるが「今は拠り所である守備に集中している」と、栃木のスタイルである堅守速攻に磨きをかけている。印象的なのは「守備に集中していれば点は入る。逆に点を取りにいこうとするとやられてしまう、それがサッカー。最悪0−0でもいい」と、栃木のサッカーを明確に言い切ることだ。そして「今は夢を見る時ではない」と、“現実”を語る。

 ここで「どちらが正解なのか」ということを問うつもりは毛頭ない。理想を求めるから弱いとは限らないし、現実的に戦って必ず勝てるとも限らない。それもまたサッカーの一つの側面である。“理想”と“現実”がぶつかった時にどのようなゲームになるのか。そして『勝ち点3』を手にした方が強者である。 

 “理想”が高らかに笑うのか、それとも“現実”を思い知らされるのか――。

 正解はないがどちらを支持するのかと聞かれれば、取材時に言われたアルディレスの言葉を拝借してこう答えたい「そんなイージーな質問はないだろう」と。

 聖地・野津田での町田の勝利を心の底から願う。